思うに作家には自分が一番書きたいものを書かせてはいけないと思うのである。
いつかコレを書きたい、その思いは作家の創作の原動力になる。書きたいものを自由に書けない新人を経て、本当に書きたいものを書ききったとき、作家はどうなるか? 多くの作家はそこで終わってしまうのだ。それまでの輝きを失ってしまうのである。
兄勉へのリスぺクトと野球をテーマにした漫画タッチを描いたあだち充、かつて月刊OUTやアニメックに、二足のわらじでアニパロを描いていたマイナー時代から一転して、メジャー誌少年サンデーにパトレイバーを描ききったゆうきまさみ、少女漫画誌でSFの連載という無謀な野望を胸に秘め、とうとうその野望をブルーソネットでなし崩し達成してしまった柴田昌弘、彼らは描きたいものを描いて終わってしまった作家たちだと思う。今は燃えカスだけで、細々と光り続けるのみなのだ。まあ、ゆうきまさみが今やってる「鉄腕バーディー」は思いのほか面白いけど、あれもリメイクだしなあ。
で、能田達規である。彼が 2001年から2004年にかけて少年チャンピオンで連載していた「ORANGE」は本当に彼が描きたかったものなのだろうと断言できる。「ORANGE」はJ2下位に低迷する貧乏クラブチームを舞台にした、画期的なサッカー漫画であった。そして、クラブを取り囲む詳細な描写、とりわけ南予オレンジを支えるサポの描写は、多くのサッカーファンから喝采を浴びた。「ORANGE」はその連載終盤を、とてつもないテンションで駆け抜けていき、大団円を迎える。
「ORANGE」はまさに大傑作であった。そして、それを完結させたとき、自分は作者である能田達規を心配した。この人はもう描けなくなってしまったのではないかと。事実、ORANGE終了から、充電期間を経て同じチャンピオン誌上で始まった「フットブルース」は半年もたずに終了した。
さて、長い前置きだったが、ここからが本題。なんかコミックバンチで能田達規が連載を開始したのである。舞台はJ2下位を低迷するクラブチーム上総オーレ。ってそれ「ORANGE」と一緒じゃん!とツッコむ人も多かろうと思うが、実はコレが全然違うのである。今回の主人公は、市役所からクラブチームに派遣された、公務員。そうこれはクラブチームの裏方のみにスポットを当てた作品なのだ。事実、連載第一回の51ページ中、試合の描写はわずか4ページ、っておい(笑) しかも、上総オーレの選手の名前が誰一人として判明しないまま、第一話が終了しているのである。
んじゃ、試合以外何をやっているのかというと、スポンサーの立て看板を並べたり、サポを誘導したり、横断幕をはる場所を間違えて叱られたりとか、そんなん延々やってるのだ。正直に感想を言う。この作品本当に大丈夫か?(笑)
のーさんも、青年誌を意識してか、持ち味であるジュベナイルな画風を変えて描いている。またクラブの裏方を主役にするストーリーは、サラリーマンをターゲットとするバンチの編集の意向もあるのだろう。にしても、どーかと思うけど。
ともあれ、この作品はのーさんが描きたいものを全て描ききれば、ORANGEに続く傑作となることだろう。それまで連載がもつか疑問だが。というわけで、ともぞうは読めヨ。