最近、第2次大戦中の枢軸国やその占領国、周辺の中立国の経済、資源などに興味を持ち、調べている。その中でも、軍需でも民需でも不可欠な衣料品の原料はどうなっていたのであろうかと拾い読みをしてみた。
 アジア歴史資料センターの中に
「 駐在員報告  昭和十九年六月
   欧洲紡績品補給情勢ニ関スル調査報告
     独逸国駐在員 陸軍主計大佐 阿久津 正蔵 」
 というきわめつきに面白い一次資料がある。
 日本でもドイツでも当然イタリアでも綿花生産(ドイツで綿花は採れるのでしょうか?)はその必要量にまったく足りなかった。化学繊維の発達が充分でなかった(人絹・スフがあったにしてもその品質は充分ではなかった)当時、綿花と羊毛は重要な衣料品の原材料だったのだが、そのほとんどを輸入しなければならない状態だった。綿花はしょうがないとしても、羊毛すらヨーロッパで自給出来ないことを上記の資料で知ったことは実際驚きだった。
 綿花の輸出国として、戦前、アメリカ、インド、エジプトなどが知られ、枢軸国でも当然それらの国から輸入していた。日本でいえば、これに中国が加わり、大戦中それなりの移入(収奪)していたのだが、絶対量には程遠く、短繊維という品質的問題も抱えていた。
大戦勃発後は中国を始め、占領地で綿花の大増産を計画し実施するのだが、そのほとんどが失敗し、日本国内だけではなく、占領地でも衣料品を供給することが困難になり、占領地の民衆の日本離れをさらに加速させた。日本占領下フィリピンでの綿花栽培の失敗は、ミリタリーマニアには知られていないが、代表的なものであり、
「日本占領下のフィリピン」編者 池端雪浦
  1996年7月26日発行 岩波書店
 ―第五章 綿花増産計画の挫折と帰結―  永野善子
  P185~P217
に詳しく書かれている。
 ヨーロッパに目を向けてみれば、ドイツ占領下のウクライナからかなりの綿花を入手したとの話もあるが、その詳細は分からない。そこで探してみたところ、戦前の日本語で書かれた綿花の動きを推測することが出来る資料を二点図書館で見つけた。
 「調第一七八號 昭和十四年六月
   防共協定國國情調査 第十四號 
     伊太利の國防資源と軍需工業 
             外務省調査部」
 イタリアも当時の日本と同じく輸入した原料をもとに紡績業で外貨を稼ぐとういう構図が出来上がっていた。(自国産の絹で外貨を稼ぐことも)
1937年の綿花輸入実績を見てみれば(単位キンタル)
 アメリカ      977,624
 エジプト      296,026
 インド       175,325
 ブラジル       68,431
 パラグアイ      44,000
 トルコ        26,657
 ペルー        20,060
 その他
 合計      1,654,003
となり
イタリア植民地からの綿花輸入量を見れば
1933年
 ソマリア        6,591
 エリトリア       2,531
1934年
 ソマリア        9,749
 エリトリア       1,622
1936年
 ソマリア        4,178
 エリトリア       1,094
1937年
 ソマリア        2,707
 エリトリア         372
となり、数量は微々たるものでも、植民地にもそれなりの思い入れがあったらしい。
 さらに、興味深いのは人造繊維(人絹・スフ)の使用で、1937年、綿糸工業での原綿145万キンタルの使用に対し、人造繊維の混合量は68万キンタル。綿布工業での綿糸87万キンタルの使用に対し、人造繊維の混合量は52万キンタルとなっている。
 上記輸入国の1つでもあるトルコの資料として
「 土耳古經濟事情竝ニ日本トノ貿易事情
   商工省貿易局  昭和十一年第七號 」
というものがある。
 主要輸出品として、葉煙草、乾葡萄、麦類と並んで、1934年、綿花13,279トンの数字が挙げられている。(羊毛は7,966トン)また、この冊子では一節をもうけ、「本邦(日本)ヘノ重要輸出品ニ付其ノ生産並ニ輸出状況」の中で綿花について触れている。
 ドイツ、イタリアで広範囲で使われていた人造繊維(人絹・スフ)の材料であるセルローズ(木材パルプ)実は自国内での生産では足りず、北欧諸国からの輸入も重要だった。
アジア歴史資料センターで見られる
「外務省通商局日報 第一號 昭和十八年一月四日
―瑞典一九三四年度の瑞獨貿易取極成立發表―」
によれば、1934年に中立国スウェーデンはドイツに14万トンの人絹用セルローズを供給する協定を結んでいる。     
 以上が最近、拾った話である。
おまけ
 上記のイタリアの本に面白い数字がのっていた。イタリアもドイツ同様、1gの天然ゴムも採れないのだが、1934年に
ゴム   217,698キンタル
タイヤ   12,888キンタル
ゴム製品   7,218キンタル
を輸入している。(ただし、45,693キンタルのタイヤを輸出している。)イタリア船籍の海上封鎖突破船が日本から天然ゴムを持ち帰ったのも、ムッソリーニがヒトラーに人造ゴムを頂戴と泣きついたのもこんな数字から見ると面白い。