昔、ビルマ戦線で英軍機から撒かれた紙が、発火しジャングルを焼き
払い、隠れ場所がなくなったという話を本で読んだことがありました。
空中から落ちてきた紙が燃えるといっても、私の頭では想像もつかず、
他にそんな話も見ることがなかったので、いつか記憶の縁に追いやられ
ていました。
今回、目録でまとめ買いした戦時中の「科学朝日」にその説明が書い
てありましたので紹介します。
イギリスは焼夷カードを用いて、ドイツを空襲している。これは4㎝
4角位のセルロイド板2枚の間に黄燐をつけた綿を挟んで水に浸したも
ので、爆撃機一台で十万枚くらい積んで来て、広告のビラを撒くように
投下する。乾くと発火して、セルロイドに燃え移り、約三十秒間くらい
燃える。これは気のつかぬ間に燃えるので藁屋根や木の庇で発火すると
火事になることがあり、また落ち葉や枯草の上で発火すると山火事にな
る。雨が降って枯草が濡れて燃え難い時には、焼夷カードも濡れていて
発火しない。二、三日晴天が続いて枯草が乾いた頃に焼夷カードも乾い
て発火して山火事になる。黄燐を含んでいるから発見しても直接に素手
で触れてはならない。
黄燐とは?
天然産のリン酸カルシウムに計算量のコークスとケイ砂を加え、電気
炉内で1300~1500℃に強熱すると、燐が蒸留され、これを水中に凝縮さ
せると得られる。黄燐は暗所で青白色の燐光を発する。これは固体の燐
の表面で燐の蒸気が酸化されるためである。また、湿った空気中で自然
に酸化され、その反応熱で発火点(約60℃)に達し燃え始め、5酸化燐
を生じる。黄燐は極めて有毒(致死量は0.15g)である。蒸気を少量ずつ
吸入しても骨が冒されるという。指に触れると火傷する。
万有百科大事典より
引用文献
「科学朝日9月号 第2巻第9号」昭和17年9月1日発行
「科学朝日6月号 第3巻第6号」昭和18年6月1日発行