石油がそもそも太平洋戦争の原因だといわれるが、もう一つのエネルギー資源の柱である石炭の生産は、昭和14年渇水による電力不足を補完する石炭火力使用における絶対量の不足から始まり、戦前、すでにその能力を超え事実上日本の継戦能力を奪い始めていた。
 日本支配下の石炭埋蔵量に不足はなかったが、採鉱能力、輸送(船舶)、インフラ全ての面で限界に達していた。
 当時の日本の鉄生産のほとんどを占めていた日本製鉄の資料の中に、昭和15年下期、「戦争に負けました」と裏付ける物がある。それは「昭和15年度下期における石炭不足による銑鉄・鋼塊・鋼材の生産減、および石炭過不足調整についての各作業所方策記録(P359~361)」である。

Ⅰ 八幡製鉄所
(1) 各用途別の石炭不足割合をみるに、使用予定量に対してつぎのごとし
          使用予定量    不足量   不足の割合
コークス用炭    1,853,902    95,424      5%
発生炉炭       322,000    45,952     14%
一般用炭       403,700    91,863     23%
計(または平均)  2,579,602    233,219     9%
  以上のごとくにして、一般用炭において著しく不足を生じ、このまま推移する時は発電用・運搬用等石炭不足のため、全工場を休止するの止むなき重大事態に立ちいたる恐れあるをもって、この際鋼材の減産を最小限度にとどむるため、比較的不足量少なきコークス用炭の一部を、一般用炭ならびに発生炉炭に振替え得ることとす。
(2) コークス用炭より他に流用する量
1,853,902t×(9%-5%)=73,000t
 このうち発生炉用炭として流用を希望する量
   322,000t×(14%-9%)=16,000t
 さらに一般用炭として流用を希望する量
   403,700t×(23%-9%)=57,000t
 従ってコークス用炭の不足量は
   95,424t+73,000t=168,500t
(3) コークス用炭減による銑鉄の減量
168,500t÷21=80,000t
(4) 銑鉄ならびに発生炉炭減による製鋼減量
 銑鉄減によるもの    80,000t×1.45=116,000t・・・・・・・(a)
 発生炉炭減によるもの (45,932t-16,000t)÷0.3=100,000t・・(b)
 従って製鋼減の総量  (a)+(b)=216,000t
(5) 一般用炭の不足はなお 91,863t-57,000t=35,000t
ついで銑鉄減による石炭の不足量は
80,000t×40kWh÷1,430kWh×2=4,500t・・・・・・・・・・・・(a)
製鋼減による石炭の不要量は
216,000t×25kWh×1,430kWh×2=7,500t・・・・・・・・・・(b)
圧延減による石炭の不要量は
216,000t×80%×120kWh÷1,430kWh×1.6=23,000t・・・・・・(c)
これを製銑製鋼圧延減による石炭不要量合計は
(a)+(b)+(c)=35,000t
となり、一般用炭の不足量はこの石炭不要量をもって補うこととする。
結局、コークス用、発生炉用、一般用炭の不足を彼此融通すると、下記のごとくなる。
 銑鉄   80,000t減
 鋼塊   216,000t減
 圧延   173,000t減
 Ⅱ 富士製鋼所
 供給不足炭は1,139tなり。鋼塊瓲当りの石炭を345kgとせば1,139t÷345kg=3,300tの鋼塊減となる。従って3,300t×0.8=2,600tの鋼材減となる。
一般用炭の不足は輪西より振替える。
 Ⅲ 大阪製鉄所
 発生炉用炭5,110t不足なるも、広畑より池野炭2,000t流用し、不足3,110t
となるも、これは重油およびクレオソートにて補うこととす。
 Ⅳ 輪西製鉄所
 コークス用炭不足による銑鉄減産量
 79,810t÷1.99=40,100t
 Ⅴ 広畑製鉄所
 コークス用炭不足による銑鉄減産量
 79,810t÷1.88=23,040t
 Ⅵ 釜石製鉄所
(1)各用途別の石炭不足割合をみるに、使用予定量に対してつぎのごとし
          使用予定量(A)  過不足量(B)  過不足の割合(B/A ×100)
コークス用炭    338,520t     +778t     0.23%
発生炉炭       0    0     0
一般用炭      33,000t  + 1,443t (輪西より融通) -80%
-26,443t
計      371,520t    -24,222t      -6.5%
  以上のごとくなり、一般用炭の不足は全工場に重大影響あるをもって、コークス用炭の一般用炭に振替えるものとして、つぎのごとく考究す。
(2) コークス用炭より一般炭として流用すべき量
33,000t×(80%-6.5%)=24,000t
(3) コークス用炭減による銑鉄の減量
24,000t÷2=12,000t
(4) 銑鉄減よる製鋼減量
12,000t×1.45=17,400t
(5) 製鋼減による圧延減量
17,400t×80%=14,000t
結局、一般用炭の不足をコークス用炭にて融通するとして減産量はつぎのごとくなる。
 銑鉄   12,000t減
 鋼塊   17,400t減
 圧延   14,000t減

 以上各作業所の減産高を集計すると(昭和15年度下期石炭不足による鉄鋼減産高)

銑鉄減産高       155,140t
本期生産予定量    1,451,000t
減産割合         10.7%

鋼塊減産高       236,700t
本期生産予定量    1,440,000t
減産割合         16.4%

鋼材減産高       189,600t
本期生産予定量    1,160,000t
減産割合         16.3%
となる。

以上は、各作業所が、主として一般炭不足による生産減をいかに克服するか、苦心の跡をのぞいてみたわけである。昭和15年(1940)といえば、国内炭も輸入炭も最絶頂の時期であったにもかかわらず、このように前途の多難が予想される状況を呈しつつあったのである。

戦前、戦中、鉄鋼生産のキーポイントはコークス用炭(ほとんど中国から強粘結炭)の入手と広範言われていたが、実は一般炭ですでに躓いていたのである。(当時、一般炭増産の余地は北海道の釧路炭、樺太炭、満州炭あとは中国にあったのだが、輸送、インフラを考えれば不可能であった。)昭和15年すでに日本は敗戦をむかえていたのである。