「地質調査所報告第154號 本邦の水銀鑛床」
昭和28年3月15日発行 工業技術院地質調査所
昔々大昔、「水銀とイトムカ鉱山」という小話を書いたことがある。何ヶ月かぶりに古本屋を訪ねたところ(ブックオフは会社の前に在るので2日に1度は迷いこんでいる)買おうかなと思っていた石炭の本の隣に埋もれていた冊子があった。ページ数にして130あまりの薄い本であり、カドも破れていたので姫以外に興味をもった人間もいなかったのであろう。さて内容なのだが、戦時中の国内水銀生産の要点をつかんだそれはそれはすごいもので、すぐにネタになるのである。
世界水銀鉱産額を見れば、1942年、
イタリア(世界第2のIdoria鉱山を有する) 2,200トン
スペイン(世界最大のAlmaden鉱山を有する)2,097トン
米国 1,474トン
メキシコ 941トン
カナダ 395トン
日本 187トン、
中国 137トン
チリ 65トン
南アフリカ 17トン
アルジェリア 6トン
トルコ 5トン
世界合計 7,500トン
であった。
ところが、昭和19年にはイタリア、スペイン、米国、メキシコ、ロシア、カナダに次いで、世界総産額の4.5%を占めるにいたった。
日本の輸入先国輸入量を見れば
昭和15年
イタリア 379トン
スペイン 111トン
メキシコ 88トン
米国 74トン
合計 656トン
昭和16年
メキシコ 608トン
イタリア 698トン
ドイツ 85トン
合計 1315トン
昭和18年
イタリア 166トン
ドイツ 105トン
合計 270トン
となる。昭和18年の輸入は柳船、仮装巡洋艦、Uボートによるものであろう。
日本の生産高は
昭和12年 12.520トン
昭和13年 25.166トン
昭和14年 39.950トン
昭和15年 113.200トン
昭和16年 142.910トン
昭和17年 187.357トン
昭和18年 227.380トン
昭和19年 246.999トン
昭和20年 104.500トン
国内地方別の生産高を最大の生産量をあげた昭和19年で見れば
北海道 233.436トン
近畿 18.300トン
四国 0.316トン
九州 3.066トン
さらに国内鉱山を産出量順に並べれば
イトムカ鉱山 195.784トン
(北海道北見国常呂郡留辺蘂町)
天塩鉱山 11.388トン
(北海道天塩国中川郡美深町)
置戸鉱山 9.931トン
(北海道北見国常呂郡置戸村)
十勝鉱山 9.280トン
(北海道十勝国河東郡上士幌村)
大和鉱山 5.227トン
(奈良県宇陀郡宇太町)
神生鉱山 4.890トン
(奈良県宇陀郡宇賀志村)
佐伯鉱山 3.065トン
(大分県南海郡上野村、切畑村、佐伯市)
瓜幕鉱山 2.941トン
(北海道十勝国河東郡鹿追村)
八十士鉱山 2.377トン
(北海道北見国紋別郡遠軽町)
西舎鉱山 0.697トン
(北海道日高国浦河郡浦河町)
千早鉱山 ?トン
(大阪府南河内郡千早村)
大神鉱山 0.445トン
(北海道?)
北鎭鉱山 0.339トン
(北海道北見国紋別郡渚滑村)
由岐鉱山 0.316トン
(徳島県那賀郡加茂谷村)
愛山渓鉱山 0.174トン
(北海道石狩郡上川郡愛別村)
幌加内鉱山 0.080トン
(北海道石狩国雨竜郡幌加内村)
多武峯鉱山 0.064トン
(奈良県磯城郡多武峯村)
他にも統計に載らないような小鉱山があったのだが、戦後、イトムカ鉱山以外はすべて商業ベースのらないので消えていった。(町村名は当時のものである。)
なお、当然この他にも鉱床の分布、形態、成因、鉱山別の状況なども書かれているが、ミリタリー趣味には外れるので触れない。(興味ある方は・・・・・)
さて、この本には思いもよらないオマケが栞がわりに挟まれていた。どこか分からない小鉱山(おそらく北海道内の水銀鉱山)の生写真が1枚である。