ごく一部で人気のある雑誌「写真週報」面白い事は面白いのだがハズレも多いのである。印度総督様のように全部集めてしまおうなどと、不埒な考えは持っていないので、わらべの様に500円玉を握り締め、「ビニール袋」に包まれた本の内容を想像(妄想)しながら買わなければならないのである。そして、ハズレた時はやっぱり「男の悲哀」を感じてしまう事になる。
 戦時中前線で、乾燥味噌と乾燥野菜があれば、取り合えずご飯のオカズには困らないという話を何処かで読んだような気がする。乾燥味噌なら想像も付くのだが、乾燥野菜と言われても漠然としてよく分らなかった。当時冷蔵・冷凍庫もろくに無いし、缶詰では重いし嵩張るし、南方は暑過ぎて日本で馴染みの野菜が採れにくいし、戦場ではやはり乾燥野菜を食べるしかなかったのであろう。現在、世の中に出まわっている古典的な乾燥野菜と言うと「切干大根」と「乾芋」ぐらいしか食べた事はないが、戦前・戦中いろいろな物が作られていたようである。

 「写真週報、第275号」 昭和18年6月9日発行に

 「萬一に備え女学生の乾燥野菜つくり」
    岐阜県岩村高等実科女学校  の記事がある。
 岐阜県岩村町の県立高等実科女学校では、萬一の場合と、当然野菜不足に陥る冬の栄養補給を考えて、昨年から天火利用の乾燥野菜の製造をはじめ、原料も学校内の報国農場で自給して、昨年中に大根五十貫、人参二十貫、葱十貫の素晴らしい成果を収めたが、今年は更に里芋、キャベツなど野菜の種類もふやそうと、一生懸命な研究と準備を進めている。

 とある。これは自家消費用の乾燥野菜の例であり、「軍用」の乾燥野菜の作り方はさっぱり分らない、そこで当時の本を探しだしてきたので、チョット紹介しよう。但し、巷にある本を調べたものであり、、軍の正式な規定や文書があるのであろうが、私は知らないし調べるすべもない。ただ、調理の仕方、戻し方は次ぎの2冊に書いてあった。
 『復刻「軍隊調理法」』1982年 解説小林完太郎 講談社
  原本は昭和12年7月26日陸軍省検閲済「軍隊調理法」
 には、乾燥野菜の調理法として
    1.乾燥甘藷(さつまいも)
    2.乾燥馬鈴薯(じゃがいも)
    3.乾燥里芋
    4.乾燥牛蒡(ごぼう)
    5.乾燥にんじん
    6.乾燥蓮根(れんこん)
    7.乾燥慈姑(くわい)
    8.乾燥南瓜(かぼちゃ)
 が載っている。他には現在でも見られる「干瓢(かんぴょう)」「切り干し大根」「紫蕨(ぜんまい)」(これは干した物)の料理があった。

 『海の男の艦隊料理』1983年 イラスト監修高橋孟 ノーベル書房
  原本は昭和17年3月改正版「海軍主計兵調理術教科書」
 には、乾燥野菜の還元法(戻し方)、調理法として
    1.乾燥ニンジン
    2.乾燥ごぼう
    3.乾燥白菜
    4.乾ホーレン草
    5.小松菜
    6.乾燥キャベツ
    7.乾燥ネギ
    8.乾ナス
    9.乾燥甘藷
    10.乾燥馬鈴薯
    11.乾燥里芋
    12.乾燥レンコン
    13.乾燥南瓜
 が載っている。ここでも「切干大根」「乾わらび」が取り上げられている。

 さて、乾燥野菜の作り方なのだが、当然フリーズドライ(真空凍結乾燥)など派手な技は使えないので(当時の日本でも技術や設備はあったようだが)、太陽と風はたまた熱風乾燥機のお世話になる。

          乾燥野菜の作り方
1.原料とその手入れ
イ、原料の選別
   出来るだけ新鮮な物を選んでください。原料が悪いと良い製品は出来ま  せん。
ロ、水洗い 
 充分に水洗いして土砂、塵埃等を取り除いてください。
ハ、皮むき  
 ごぼう、芋類は皮を剥いてください。そして変色しないよう清水か塩水に  漬けください。
ニ、切断
 根菜類はそのまま調理できるよう均一な厚さに切ってください。厚さが  不揃いだと乾燥が一様にいかず、工業的大量生産が出来ません。
2.予備処理(野菜の色止め)
 野菜特に青物は加工中または貯蔵中変色し、見た目も良くなく、栄養価や  味にも影響します。そこで変色防止の為、熱湯処理または蒸熟処理します。加熱は短時間に行ない、加熱後冷水で急速に冷却します。そして水切りをします。
(遥か大昔「植物の褐変」について卒論書いたよな~)
3、乾燥
 乾燥法には1、天日乾燥 2、火力乾燥があります。
 火力乾燥にも イ、直火法 ロ、間熱法 ハ、熱風利用法があります。
 乾燥機は製茶用乾燥機、輸出が減り余剰となった乾繭機が通常使われます。(乾燥機を使用すると、ニンジンは摂氏71~82℃、4~5時間で乾燥します。)
4.梱包
 小松菜、ほうれん草のような葉菜類は嵩張っていますから、これらを梱包する際には、まず製品を圧搾枠につめ、水圧機で400ポンド位の圧力を加え圧縮します。糧秣廠納入の乾燥葉菜類はこの処理が必要で、出来た葉菜類は板状に硬結されているので運搬しやすく、しかも水分の浸入が少なく、空気に触れる部分が少ないので変質が防止されます。圧搾品は紙に包まれ、ブリキ或いはトタンの内函に入れてハンダ付けします。これを四分板の外箱に納め、板面に内容を表記し、荷造りします。・・・他の乾燥野菜はどうやって梱包したのでしょう?

   引用・参考文献
  「全書農芸実用 23 食品貯蔵」木村 金太郎
   昭和19年9月5日発行 産業図書株式会社

  「実用保存食品の製造法」星 忠太郎
   昭和14年1月15日発行 誠文堂新光社