昨日借りてきた本に
  「蒼海の財宝」H.エドワーズ著 井谷 善恵編訳 
   2003年7月30日 東洋出版
という本がある。これは「Treasure Hunting」すなわち、海洋における沈船からの有価物の引き上げについて書いた本だ。プリンス、昔から水中考古学そしてトレジャーハンティングについての本は読んできた。なにせ、日本で唯一体系的に発掘が行なわれた北海道江差町の江差港における幕府軍艦「開陽丸」の発掘に、学校の先輩が二人も大きく関与していたので興味を持たざるを得ない。トレジャーハンティングといえばカリブ海のスペイン船の話が有名だが、この本では南シナ海などのオランダ東インド会社商船、中国のジャンク船からの明・清朝期の陶磁器の引き揚げが話の中心だ。しかしこの本でプリンスに重要な所は、話の前置きに出てくる太平洋戦争中に沈んだ商船、艦艇の調査・積荷のサルベージの話だ。この本の主人公マイケル・ハッチャー Michael Hatcher はイギリスからオーストラリアに移民した方なのだが、かなりその行動は怪しい。しかし、プリンスにとってはとても有益な話なのである。今回はその話についてすこし書いてみる。

1、 ラバウル港に沈み埋め立てられて桟橋として使われている小牧丸(国際汽船、8,524総トン、昭和17年4月18日、空爆)と思われる船のプロペラを爆破、回収し売り飛ばしている。(1970年代)

2、 シンガーポール陥落直前にシンガポール港を脱出しリオウ海峡で日本軍の砲撃で沈没したロッホ・ランザ号(7000トン、積荷は錫、シンガポール向けの航空燃料、航空発動機、ハンダ、長い真鍮の延べ棒、ウイスキー、ビールなどの一般的な商品)の積荷(錫200トン?当時1トンで4万3000ドル)、プロペラ(青銅製27トン)を引き揚げた。錫は700万ドルで売れ、経費は20万ドル。
(ロッホ・ランザ号について知っている方はプリンスに教えてください。)

3、 UIT-23(旧イタリア潜水艦 レジナルド・ジュリアーニRejinaldo Giuliani)昭和19年2月13日シンガポールを出港しペナン港に立ち寄ったあとヨーロッパに帰ろうとしていたが、2月14日イギリス潜水艦タリホーTally Hoの雷撃を受け沈没している。ハッチャーはマラッカ海峡で1979年11月に発見し、翌年1月から3ヶ月かかって積荷の回収を行なっている。回収したのはゴム(ほとんど劣化せず、新品の25%で売れる)錫(船内のほかにもバラストキールとしても用いられた。)で総額700万ドルになった。戦死者は艦内にそのまま残され、レジナルド・ジュリアーニと書かれた羅針盤カバーはイタリアの海軍潜水艦乗組員協会に送られている。参考までにUIT-24(旧イタリア潜水艦 コマンダンテ・カペリーニComandante Caperllini)はゴム115トン、錫55トン、キニーネなど各種10トンを積載したという。

4、 U-168はジャワ島バタビアからスラバヤへ向かう途中、昭和19年10月6日、オランダ潜水艦ズヴェートヴィックZwaardvisch(旧イギリス潜水艦タレントTalent 1943年譲渡)に雷撃撃沈された。これも引き揚げを行なったが、金目の物は無かった。

5、 昭和19年2月20日、南シナ海でアメリカ潜水艦ホークビル(SS―366 Hawkbill)により、雷撃撃沈された大善丸(大阪商船、5,396総トン)。1200トンの錫を積みブルネイ沖で触雷し、一度港に帰って錫をおろし、軽くしてから機雷で壊れた部分が海面に出るようにし、その後、パレンバンで鉄道のエンジン?などの道具をおろしてから、シンガポールで修理しようと航海していたとある。しかし、錫がおろされたとは知らず、回収を試みたが、載っていたのは鉄道のエンジンだった。

6、 昭和20年2月7日、大暁丸(大阪商船、6,982総トン)は、南シナ海でグアヴィナSS―362 Guavina)により、雷撃撃沈された。別の会社が最初に400トン以上の錫を引き揚げ、次に著者が600トンの錫を引き揚げた。1000万ドルになった。

7、 昭和16年12月消息をたったオランダ潜水艦K-ⅩⅦと思われる沈没位置を確認し、舵柄と舵輪を引き揚げた。艦首に機雷によると思われる破孔があった。沈没時浮上航行中だったらしく、ハッチは全て開かれていた。

8、 その他にも駆逐艦、掃海艇、商船のサルベージも行なわれているらしいが詳しい話は書かれていない。

  参考・引用文献
「海底考古学と開陽丸」北海道江差高等学校 昭和55年3月10日発行
「海底の秘宝」ロバート・F・バージェス著 平野 勇夫訳
 1991年3月30日発行 図書印刷
「神戸市立博物館開館記念特別展 海のシルクロード」昭和57年11月
「太平洋戦争沈没艦船遺体調査大鑑」
「Uボート総覧」
「ナチスUボート、イギリス潜水艦史、第2次大戦のアメリカ軍艦」海人社
「U.S.SUBMARINE ATTACKS DURING WORLD WAR Ⅱ」
  John D.Alden Naval Institute Press
「Schepen van de Koninklijke Marine in W.O.Ⅱ」Chris Mark

中国が戦争末期、アメリカ潜水艦に沈められた病院船阿波丸をサルベージしたのは、ただ金欲しさの為だけではなかったのかと、ふと思う。