昔、家電の営業をやっていた頃の話。
ある日、店長について、とある老夫婦の顧客のお宅にお邪魔した。
折りも折り、老夫婦はドラクエ2を絶賛攻略中で、若いからゲームに詳しいと見られた自分にいろいろ聞いてくる。
店長の顔色をうかがいながら、話し相手をしていると、ご主人がこんな話をはじめた。
「主人公に『ひろひと』って名前つけてね。わざと死にまくるのよ」
は?
「するとね、ゲームのメッセージで『ひろひとはしんだ』『ひろひとはしんだ』って何回も出るの。あははははは」
‥‥‥‥‥
70すぎとおぼしきご主人の、笑い声はひどく涼しげで。
自分はというと、引きつった愛想笑いを返すのがやっとだった。
唐突に思い出した、八年前の思い出。