ヨーロッパにあれだけ羊さんたちがいるのに、なぜ羊毛が自給出来ないのか不思議に思っていた。そうすると、どこからともなく答えが出てくる。
「 南方経済総覧 第十二巻
   オーストラリア・ニュージーランドの経済資源 」
  著作者 金子鷹之助 清川政二
  昭和十八年三月五日発行 東亜政経社
という本で豪州(オーストラリア)とニュージーランド(新西蘭)の羊毛生産について触れられている。
「豪州の牧羊業の世界的地位を論ずる場合、単に羊頭数並びに産毛量のみを以つてするは妥当性を欠くと云う事である。即ち「量」の側からのみではなく、此処に更に「質」の側よりする観察を加える必要があると云う事である。何故ならば羊頭数のみを以てするならば、満蒙、支那、印度或はソヴィエツト・ロシアの羊頭数は次の如く
 ロシア   8,450万頭
 支那・満蒙 3,800万頭
 印度    5,000万頭
合計1億7千万頭と云う厖大な数字になるが、一度これを立場を変えて「質的」な立場から観察するならば、之れ等の国の牧羊業は従来何れも羊毛を目的とせず、羊肉・羊皮を目的とせるものなる為に、その産毛は殆んど全部が所謂「カーッペット・ウール」であり、粗悪にして「死毛」多く、絨毯用以外には紡績用としては不適当なものが多いからである。」
と云う事は、ヨーロッパの羊は主に食肉用として生産されていた事がわかる。
 ついでなので、この本に書いていた面白い統計を書き写す。
 世界に於ける羊産毛量統計
     (年度不明 単位 脂付100万ポンド)
豪州     1,023
北米合衆国    455
アルゼンチン   380
新西蘭      297
ソ連       259
南阿連邦     246
支那       110
ウルグアイ    110
英国       107
インド      100

 世界に於ける紡績用羊毛主要産出国統計
     (1938~39年度 単位 脂付100万ポンド)
豪州      985
新西蘭     329
アルゼンチン  394
ウルグアイ   114
南阿連邦    264
北米合衆国   457
英国      110

 更に紡績用羊毛の中でも、最も優良な原料と云われる「メリノ羊毛」の生産量を見てみれば
 世界に於けるメリノ羊毛産出量
     (1937~38年度 単位 脂付100万ポンド)
豪州      833
南阿連邦    241
北米合衆国   227
アルゼンチン   53
ウルグアイ    15
ハンガリー    14
ドイツ      13
新西蘭      12
フランス      8
(このほかにスペインより年産約1200万ポンド産出されるが統計不備の為、除外)

自国消費を除いた輸出能力を見れば
 世界「輸出羊毛」統計
     (1938~39年度 単位 1,000俵)
豪州      2583.7   48.2%
新西蘭      656.1   12.2%
南阿連邦     790.0   14.7%
南米      1234.0   23.0%
英国       101.9    1.9%

 豪州羊毛輸出統計(脂付羊毛+洗上羊毛) 
    (自1935年7月1日~至1936年6月30日 単位 俵)
英国         957,483
日本         779,857
白耳義(ベルギー)  373,692
仏蘭西        257,693
独逸         107,429
米国          90,126
和蘭(オランダ)    53,688
波蘭(ポーランド)   48,771
チェコスロヴアキア   30,603
墺太利(オーストリア) 16,187
伊太利         16,352
加奈陀         11,171
瑞典(スウェーデン)   9,385
印度           7,728
瑞西(スイス)      6,830
西班牙(スペイン)    5,792
葡萄牙(ポルトガル)   3,060
希臘(ギリシャ)     2,483
墨西哥(メキシコ)    1,029
丁抹(デンマーク)      953
ブルガリア          779
露西亜            450
新西蘭            365
諾威(ノルウェー)      344
ユーゴスラビア        304
香港             247
埃及(エジプト)       200
支那              76
秘露(ペルー)         59
錫蘭(セイロン)        37
芬蘭(フィンランド)      30
エストニア           10

となり、枢軸国に関しては羊毛に関してはお手上げ状態だったことがよく分かる。自国民だけではなく同盟国、占領国の人間にも最低限の着る物をに与えられないのだから、戦争に負けるのは当たり前である。
 こんな暗い数字ばかり書き写しても、だれの興味も湧かないと思うので同じ本に書いてあった別の数字を書き写す。
 銑鉄世界産出高
     (1937年度 単位 単位 千噸)
北米合衆国     37,127
ドイツ       15,957
ソ連        14,520
英本国        8,497
フランス       7,917
ベルギー       3,843
日本         3,561
ルクセンブルグ    2,513
チェコスロバキア   1,675
インド        1,453
カナダ          898
イタリア         790
ポーランド        724
豪州           665
スウェーデン       646
オーストリー       389
ハンガリー        362
南阿連邦         272
総計        92,848
少しだけましか・・・・