マーリンとアリソン 3

マーリンとアリソン。毛並みが良くてサラブレッドのマーリン。働き者で泥臭いアリソン、といったイメージが何となく(P-40のせいですね)あるんですが、実際、どっちが骨太でガッツのある頑丈な奴だったかといえば、サービスライフで比較すると1940年から1942年頃まではマーリンの勝ちです。アリソンV-1710は第一線で150時間しかもちません。マーリンはその倍です。問題を抱えたひ弱なエンジンがアリソンなのです。

 これは当たり前と言えば当たり前で、V-1710そのものがマーリンの後輩でその分だけ熟成が遅れていますし、しかもE、Fタイプは新アリソンとでも言うべき新設計エンジンですから尚更です。最終的にサービスライフは年度ごとに伸びて500時間程度にまで達した頃、第一線航空エンジンとしての使命を全うしますが、初期はこんなものなのです。

 繰り返しますが、一段過給器でスタートしたマーリンとは違い、アリソンV-1710は最初から高高度性能に優れる二段過給式のエンジンです。その一段目が排気タービンになっているだけなのです。
これを外したから一段式過給器が残ったのであって、その機械式過給器の性能向上と、機械式二段過給器の装着がアリソン改良の歴史です。

 対するマーリンは排気タービン装備にあまり熱心ではありません。これは排気タービンの装着によって推力式排気管が生み出すパワーを失うことを嫌ったことが大きな理由といわれています。マーリンにも英国爆撃機の高高度進入が常識化しつつある中で排気タービンの装備が検討されてはいますが、結局機械式の二段過給器装着に留まっています。

 二段過給器の開発について両者には大きな差がありません。どちらも1943年中に安定的な量産が可能になります。ただ、マーリンは一足早くP-51Bに搭載されてしまい、アリソンはP-63に搭載されてしまったこと。そして、二段過給器装備のアリソン搭載試作機が軒並み失敗したことがアリソンへの通俗的評価を生んでいるだけです。もっともマーリンの二段過給器はアリソンに比べてコンパクトで艤装に有利で、この点ではアリソンが劣ります。

 そこでアリソンの本体とマーリンの二段過給器を組み合わせた「まりそん」とでも言うべきエンジンが試作されます。マーリンとアリソンのいいとこ取りのハイブリッドエンジンが存在したのです。
 けれどこの試作エンジンは結局、耐久運転に失敗します。マーリンの二段過給器はコンパクトでエンジンが発生する熱の影響を織り込みながら設計されていたのでマーリンとの相性は抜群でしたがアリソンには適応できなかったようです。

 結局のところ、この二つのエンジンは良く似た性格のエンジンで、その開発プロセスも似ています。ターボとセットだったアリソンはその点でマーリンに先んじたエンジンと言えますし、その分だけ二段過給器装備が少し遅れます。この少しの遅れに「ムスタングのエピソード」がタイミングよく挟まるのです。

 良く似たエンジンであるため、P-38にもマーリン装備案が初期の一段過給器時代から二段過給器のマーリン60シリーズまでありますし、アリソンの希望を一身に背負ったかたちのP-63にもマーリン60換装案があります。どっちが良い、どっちが悪いという話ではなく、航空エンジンに恵まれた米国は二つの高性能液冷エンジンとそれぞれを搭載した戦闘機を揃えて、自分の都合と照らし合わせて色々考えることができたという話なのです。

これじゃ辛口評論とやらも成り立たず、人を感心させるような説教話のタネにはなりません。現実とはそうしたものであります。

4月 9, 2008 · BUN · No Comments
Posted in: 発動機

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