ノモンハン、日本側の認識
ソ連空軍がノモンハンで得た「教訓」は前に書いた通りですが、日本側(関東軍参謀本部の報告)はノモンハンの航空戦について 「今次空中戦を観察するに空中戦等は一騎打的単機格闘戦の連続にして空中戦開始直前の接敵下令以外に特別戦術的頭脳を要せず、むしろ高高度に於ける単機格闘戦の連続に耐する体力気力を絶対必要とし、これが為には元気溌剌たる若き操縦者を最適とする」 と述べています。 高高度戦闘に耐える体力があればよく頭は使わないので年齢のいった操縦者は他の機種に転科させるべきで、理想としては400時間程度の飛行時間を有する操縦者でしかも若い者が良いとしています。ソ連側の評価と比較すると実に面白いものがあります。 また「精神主義的」「職人芸的」「火力軽視」だと一般に語られる陸軍航空隊ですけれども、ノモンハンの空中戦で戦闘機隊が優秀な成績をおさめたのは操縦者の熟練の賜物というばかりでなく、I-16に対して九七戦の性能が優れていたことは各戦隊長が認めていることで、空中戦の勝敗というものは・・・ 「機材の良否に関すること極めて大なるものあるに鑑み、現機種に満足することなく常に躍進を企図し、常に敵に対し機材の優位を保有するは緊要欠くべからざる事項とす」 ・・・というものなのだと報告しています。 そして戦闘機はもっと高速で高高度性能に優れていなければ今後の敵新型機に対抗できないので酸素装備は必須のものになるだろうし、武装も現行の機関銃では敵機に火災を起こさせることが難しく爆撃機の撃墜が困難なので、今後は二〇粍程度の機関砲を装備することが理想だとしています。 こうした報告内容はほぼその後の航空兵器研究方針改正に反映されていますから、ほぼ陸軍航空の主流をなす見解でもあります。けれどもこれを一読すると、一般的な陸軍航空隊のイメージから余りにかけ離れていますから「何処の国の話だ」と首を傾げてしまいますね。 このほか陸戦分野で「戦車はべつに増強しなくてもいいじゃないか」という主張もあってそれはそれで面白いのですけれどもまた次の機会に飛ばす与太の素として、何にせよ、こんな史料の存在に臆することなく「精神主義」だの「火力軽視で機関砲を嫌った」のと説教調でガンガン書けるようにならなければ一人前のノンフィクションライターではありません。 さあ、明日も頑張りましょう。
3月 7, 2008
· BUN · 2 Comments
Posted in: ソ連空軍, ソ連空軍復活の背景
2 Responses
姫 - 5月 28, 2008
地方のマニアの戯言
「昭和十五年朝日年鑑」朝日新聞社
昭和十四年十月二十日発行 定価一円五拾銭
P214より
「空軍の圧倒的勝利による制空権の確保(冗談でなければ日本側でしょう)」
「殊にソ連の誇りとする空軍の実力が、日本空軍の前には全く手も足も出ない程度のものであることが明瞭になったことは一大収穫であった。」
「翼よ雲よ戦友よ-ある戦闘機乗りの記録」田中林平
昭和49年8月15日発行 時事通信社
この本は第六十四戦隊に所属した方が書かれているのですが、ノモンハンに進出したのは8月15日であり、その時にはすでに空中戦(格闘戦)を徹底的に避けるソ連軍機の状況が分かります。またソ連軍戦闘機にによる地上銃撃により、かなりの量の機体を損失しています。一般に流布されていたソ連軍機の地上銃撃は効果がなかったという話とは違う感覚を受けます。
BUN - 5月 28, 2008
おお、圧姫様。
よくぞこのような場末まで。
陸軍航空本部と現地部隊との認識の違いなども非常に興味深いものがありますし、若手将校たちと古株の戦隊長との認識もまた違います。面白いですね。
Leave a Reply