Archive for 7月 21st, 2008

第三次ソロモン海戦第一夜 戦闘開始時の両軍陣形の推定

 最初の写真はモリソンの「The Struggle for the Guadalcanal」に掲載された合戦図を元にしたもので、「夕立」が米艦隊を発見する直前の2341時における陣形とされるもの。

guadalcanal_2341.jpg

日本の主隊は第一〇戦隊に護衛されて粛々と140度方向に進んでおり、左側警戒幕の後方には一〇分前まで右側にいた警戒隊である四水戦の朝雲以下三隻の駆逐艦が続行しています。そのやや前方にいる駆逐艦二隻は警戒隊の「夕立」と「春雨」であり、この時点でほぼ東方に針路を向けて艦隊の前方警戒に任じていることになっています。ただこの図も各艦の行動記録を付け合わせると些か話が合わないのも確かで、特にこの時点の「霧島」は本当に「比叡」と陣形を組んで進んでいたのかどうか疑問があります。
 一方米艦隊は2337時にそれまでの針路310度から針路000度に転針しており、日本艦隊の頭を抑える様な格好で真北に進みつつありました。だがこの時点で駆逐艦「カッシン」が日本艦隊を発見(警戒隊の「夕立」と「春雨」)、日本艦隊へ肉薄雷撃を掛けるべく同艦以下四隻の第一〇駆逐隊は針路を315度に変針して日本艦隊へと向かっていきます。この直後に米艦隊の接近を発見した「夕立」と「春雨」は、米艦隊に頭を抑えられないように北方向に向けて転進したため、彼我の距離は開いていきますが、第一〇駆逐隊はその直前方に日本の大型艦が居るのを発見していたため、そのまま同隊は後方の大型艦へと向けてそのまま進みます。この後本文で書いたように第一〇駆逐隊の運動が急であったため米艦隊の陣形はやや乱れ、「アトランタ」と「オーバノン」、「サンフランシスコ」は併走するような形で交戦開始を迎えます。対して「夕立」からの警報を聞いた日本の主力部隊は米艦隊に頭を抑えられるのを割けるためもあって針路を八〇度に変更しますが、どうも米艦隊主力の姿しか見つけられなかったらしく、米の第一〇駆逐隊のうち最初の二隻は、交戦開始前に第一〇戦隊の右側警戒幕をすり抜けて「比叡」の側方に進出することに成功します。

 この結果、合戦が開始された2350時の時点で、日米両艦隊の陣形は次の写真のような交錯した物となってしまいます。

 guadalcanal_2350.jpg
この状況に説明を付けますと、
○ 米艦隊主隊の針路はこの時点でまだ000度。080度方向に向かいつつある日本艦隊に
  対しては概ね全砲の射界が開けていた。
○ 「比叡」を護衛して日本艦隊の先頭を進む「長良」と、「比叡」の右側に居る「暁」以下の
  駆逐艦三隻の合間をすり抜けて、 「カッシン」「ラフェイ」の両駆逐艦が「比叡」の右舷側を
  進撃中。三番艦の「ステレット」もこれに続いていると思われるが、 この写真のように
  この両艦の後方にいるのではなく、日本艦隊の右側警戒幕の前方位置にいる
    可能性がある。
○ 右上方で明後日の方向に向かっている日本駆逐艦は「春雨」。
     その横の駆逐艦は「夕立」で、同艦は米艦隊の 針路変針に気がついて
     交戦海域目指して突撃中。
○ 米駆逐艦の先頭位置にいる「カッシン」は絶好の雷撃位置を過ぎてしまったため、
      「比叡」の左舷側に移動すべく運動開始中。このため同艦は 後に「比叡」の左舷側に居た
      「雪風」以下の警戒駆逐艦に叩きのめされる。
○ 「長良」の右舷側方にいる米駆逐艦は「オーバノン」。後方にいる軽巡は「アトランタ」だが、
   実際にはこの時期「アトランタ」は「オーバノン」の左舷後方の至近距離を航走中。
   (同一ヘクスに置くと良く分からんので、こうした次第です)。
○ 「アトランタ」の右舷側にいる重巡が「サンフランシスコ」。「比叡」の第一斉射は
     この両艦の間に着弾して三式弾の弾子をばらまいた。
   例の「比叡の初弾がアトランタの艦橋に命中」した、というのは「夕立」艦長の
     回想に基づくものだが、「比叡」と「アトランタ」、「夕立」の位置関係を見れば、
     「夕立」からそう見えたのは無理からぬところ。
○ 「朝雲」以下四水戦司令官指揮下の警戒隊の残り三隻と、
     「霧島」は恐らく後方のやや離れた位置にいる。
   (実際「比叡」と交戦した米艦隊前衛の駆逐艦は、合戦開始時に
        「比叡」の直後に居るはずの「霧島」の姿を認めていません)。

 …といった案配になります。

 まあしかし、こうやって駒を盤上に並べて状況を再現してみると、同海戦がとても第二次大戦時の大型艦同士の交戦には見えない接近戦であったことが良く分かります。米側の回想録に「比叡」の砲弾が米艦の頭の上を飛び越して行く、というものが多いのも、これでは無理はありませんね。

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