夏休み特番 「日本海軍機 迷彩塗粧ヲナセ!」 2
何度も繰り返しますが軍隊はお役所の最たるものです。
飛行機を迷彩塗粧するとは、お役所的には官房機密五〇五を実行することを意味します。支那事変中の海軍機塗粧を定めた一番大切な命令はこの五〇五だからです。ところがこの官房機密五〇五は迷彩の実施と昭和10年の内令兵四十五号による番号表示様式の中止を定めているにも拘わらず、その中身はまったくのスッカスカでした。
迷彩についても、その様式は「航空本部長ヲシテ後送セシム」とあるだけです。「やるぞ」とは伝えておきながら何をやるかは具体的に決まってないので後から伝えるぞ、というのが五〇五の内容です。
7月20日の時点ではまだ何も決まっていないのです。
そうはいっても戦争は始まっているのでしびれを切らしたような実施命令が出ます。7月23日に佐世保鎮守府機密六七七番電で官房機密五〇五の実施特令が伝えられます。グズグズしていられない、という雰囲気です。佐鎮機密なのは事変参加の航空部隊への補給支援責任は佐世保鎮守府にあったからです。責任がある以上、当方の仕切りでやり始める、ということです。
けれど同じ日、それをかき消すようにして実施部隊である一連空機密一八番電が佐鎮機密六七七による実施の見合わせ、番号表示の継続を伝えます。塗料も塗装要領も識別表示のやり方も全てはっきりしないから適当にやるのは困る、ちょっと待ってくれ、というのです。
補給責任のある佐鎮が義務を果たそうと焦る一方、佐鎮に適当にやられて変な塗粧を施して、敵機と誤認されてはかなわないと考えたのかもしれないのが第一連合航空隊で、ちょっと微妙なやり取りでもありますね。とにかく慌ててもどうにもならない状態で一週間が過ぎようとする7月29日、一連空機密第二五番電が発せられます。
「官房機密第五〇五番電ニ依ル飛行機迷彩及呼称番号消除並ニ当隊機密法令第一号ニ依リ色別標識ヲナセ」
ついに実施命令が出たのです。
7月29日に一連空機密二五番電で迷彩実施が命じられた翌日の7月30日、今度は一連空の上位にある第三艦隊が機密第三〇一番電で、
「航空機塗粧及標識ニ関シ
官房機密第五〇五番電ニ依リ発令セラレタルモノノ外
戦隊別標識ヲ附スハ要アリト認メラルル所
之ガ実施ノ可否至急指示ヲ得度」
戦隊別の識別もしたいので返事をくれとの内容です。細かい部分が決まっていないので迷彩そのものよりこうした点で困っている訳です。
早くしないと勝手に決めちゃうぞ、という気持が見えてきますね。
そして同日、軍令部から「こういう事になっている」と説明が入ります。
軍令部機密第三八三番電
「本事変中海陸軍航空機ノ味方識別ニ関シ左ノ通リ御了知相成度
一.陸軍飛行機ノ迷彩ハ海軍機ノモノト同様トシ
日ノ丸標識ハ上翼上面下翼下面
但シ現在迷彩実施未済ニシテ銀色ノモノアリ
二.海陸軍略同一基地ヲ利用シ又同時機同一方面ニ行動スル場合
飛行機隊ノ運動ニ依ル味方識別ハ海陸軍指揮官間認定ニ依ル」
この電文は意識して読む必要があります。海軍の立場で述べられていますが、要は海軍は準備ができていないので 陸軍と同じ迷彩をするのだ、と言っているのです。
「現在迷彩未済ニシテ銀色ノモノアリ」は陸軍ではなく当の海軍機のことなのですから。
とにかくこの時点で海軍機には迷彩の様式が無いので陸軍機がそれに倣うことなどできません。二.と同じように部隊レベルで何とかしのいで良いという説明とも読めます。
この電文によって、関係する各航空隊はようやく動き始めたようで木更津空の戦時日誌には7月31日に「飛行機ノ迷彩ヲ開始ス」とあり、ようやく迷彩に関して手が動き始めたことを示しています。木空はそれから3日目の8月2日に迷彩塗粧を完了。けっこうな仕事ですね。
さらに8月1日には第三艦隊の方針も決まり、
第三艦隊機密第三四三番電は
「第三艦隊飛行機ハ官房機密第五〇五号ニ依リ塗粧ノ外
左記ニ依リ識別ヲ附スベシ(昭和十一年機密第三艦隊法令十二ハ之ヲ廃止ス)
尾部上部ニアラビヤ数字ヲ以テ識別符号
其ノ下部ニ羅馬数字ヲ以テ艦船識別番号ヲ白塗ス
但シ第一連合航空隊飛行機ハ特ニ標識ヲ附セズ
バタバタとしながら細かい部分が決まったり、決まらないままだったりしたことが判りますが、 肝心の「陸軍機と同様」とはどんな迷彩のことだったのでしょう。
8月 13, 2012
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Posted in: 陸海軍航空隊
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