正月特番 付録 (1949年の先制核攻撃)

1949年9月、高高度偵察機が収集した大気サンプルの分析で
ごく近い過去にアジア大陸で核爆発があったことが確認されます。
これがソ連の核兵器開発成功をアメリカが察知した瞬間です。

ここのあたりは市販の本にもちゃんと書いてありますからどうでもいいんですが、
ソ連が原爆を持ったことが判明した瞬間に
アメリカは対ソ開戦を検討しています。
ソ連軍の核武装が完結しないうちに全てを破壊してしまう予防戦争の検討です。

この戦争は開戦初日の先制攻撃でソ連空軍基地にある戦略爆撃機部隊を壊滅させ
核兵器の運搬手段を完全に失わせることが最大の課題と考えられます。
核戦力を無力化した後はどうにでもなる、と考えているのは
その研究を急いでまとめているのが空軍大学だからですね。

せっかく思い立ったのですから
男らしく即座に実行すれば良かったのかもしれません。
けれどもアメリカは結局諦めてしまいます。

その理由
・ソ連が持つ核弾頭の数がわからないので核攻撃の規模が想定できない。
・空軍の偵察能力に限界があり敵戦略爆撃機部隊の展開状況がわからないのでターゲッティングできない。
・戦略空軍そのものの戦力不足で一撃による壊滅ができないので敵の核爆弾による反撃が予想される。
・アメリカ本土防空能力が貧弱で原爆搭載機の侵入を阻止できない。

要するに1発や2発のお返しを貰って主要都市のどれかが吹き飛ぶ可能性を恐れて中止している訳です。
アメリカが核戦争に踏み切れないこの胆力の無さ、思い切りの悪さ、気の弱さを覚えておく必要があります。
核兵器での対峙が発生した瞬間から
「この兵器は実際には使えない」と判断されてしまっているのです。

それから延々と続くアメリカの核戦略が、
それこそ最上最高の知性をかき集めて研究立案されて行く安全保障計画が
素人目からも時として観念的で理屈だけの存在に映る原因がこれです。
言い換えればそれが広島長崎以降、今日まで核戦争が無かった理由です。
一番使うべき時に使えなかった観念的存在ですから
米ソどちらかが理詰めで追いこまれない限りその後の平和は必然でした。

それからの努力は使えない兵器を何とか使えるようにする方向に向けられます。
今まで「わざと」大型のまま停滞させていた技術開発を再加速して
超重爆ではなく、戦闘機や野戦重砲で運べる弾頭の開発へと向かう訳です。
そうしないとソ連から「また使わないだろう」と思われるからですね。

「アメリカは今度はやるぞ、次は使うぞ」と相手が思わなければ抑止力として機能しません。

でも、それらの開発も根っこは「1949年の予防戦争断念」にありますから
核戦略につきまとう胡散臭さと煮え切らなさは
出発点からずっと漂い続けているということです。

1月 5, 2013 · BUN · 2 Comments
Posted in: アメリカ空軍, 冷戦, 核戦争

2 Responses

  1. 戦略目的と編成ファン スキピオ・クマさん - 1月 5, 2013

    >根っこは「1949年の予防戦争断念」にありますから
    核戦略につきまとう胡散臭さと煮え切らなさは
    出発点からずっと漂い続けているということです。

    私のような小市民と大統領・書記長とは思考内容や判断基準が違うでしょうけれども、「あんたならその時どうしたのか?」と聞かれたら、自分は平和時に全面核攻撃命令は出せないでしょうね。 そうなると限定条件で小さいのを脅しで1発使用ならOKかな? または、大規模な通常戦が起きて血みどろの戦いになってしまい死傷者何万人となった時に、国内から「核兵器を使って我々の息子の命を守れ!」 という声がいっぱい沸きあがった時に全面使用ですかね。 私のような小市民は選挙民の声に引っ張られてしまいそうです。 でも、できたら自分の任期中は使いたくない。 ・・・もやもや感が吹っ切れませんね。 
    冷たい戦争であっても45年後には勝負が着いたという現実があります。次の大国間の戦争もこんな形で決着が着くとお考えですか?

  2. tellus - 1月 6, 2013

    年越しイベント楽しませて頂きました。
    戦略爆撃を100%防げない故の平和ですか。ドゥーエ主義が核の力で実現したということでしょうかね。
    アメリカは本土を少しでも爆撃されることを恐れたのは、被害がどれだけ小さくても国民感情というものが黙っていないからなのでしょうか。
    米英に焼かれたドイツ国民のように逆に結束するとは考えなかったんでしょうか?

Leave a Reply