即席空軍大国 4(連合国が望んでいたもの)

 参戦当初、アメリカは国内で大量生産する航空発動機について3つの方針を持っていました。一番目は既にアメリカで製造されていたアメリカ製発動機の増産です。アメリカ製発動機は旧式かつ低馬力でしたが、初歩練習機用としては十分通用すると考えられたことと、アメリカ軍の航空兵力育成には何をおいても乗員の養成が大切ですから、改造、改良の必要がないアメリカ製の既存発動機は今すぐ必要な初歩練習機用として極めて重要だったのです。

 二番目はヨーロッパ製現用発動機のライセンス生産です。ヨーロッパの第一線機に用いる軽量大馬力の航空発動機を量産できてこそ、大国アメリカが連合軍の勝利に貢献していることを内外に宣伝できたからです。練習機での貢献は政治の枠内で考える限り、あまりにも地味なものと判断されています。現用発動機を搭載した第一線機を大量に送り出してこそアメリカの顔が立つということです。

 三番目はヨーロッパ各国で試作中の次世代大馬力発動機の国産化です。最新の技術を学び、次の世代の軍用機生産に用いる準備をしなければなりませんから、それまで実績の無いアメリカにとって、たとえそれが成功作となるか、失敗作として試作中止されるかまだ何とも予想しがたいものであっても今のうちからどれかのライセンスを得ておく必要がありました。

 この3つの方針の中で予定通りの実績を上げられたのは一番目だけです。二番目の現用発動機国産化は前回紹介したようにヨーロッパ流の手仕事を前提とした製造組み立て方法をアメリカ式の機械加工による標準化、規格化した製品に仕上げなおすための膨大な手間がかかり、開戦前に製造権を取得していたグノームやルローン、イスパノスイザなどの発動機は参戦時にまだ「アメリカ化」の最中で大量生産できる段階になく、さらに悪いことには連合国からの要求はこれら量産準備中の製品ではなく、さらに馬力を向上させた改良型の製造に切り替わってしまいました。

 そのために量産準備が進んでいたのに早くも旧式機と化したヨーロッパ製発動機は全て高等練習機用に回されています。第一次世界大戦時のアメリカ製練習機としては比較的有名なトーマスモース戦闘練習機の発動機にはこうした由来があります。トーマスモース練習戦闘機は練習機にしては随分と立派な機体ですけれども、それもそのはず、本来ならこの程度の機体を参戦と共に送り出し、それがヨーロッパの戦場で戦闘機として一人前に通用する腹積もりだったのです。

 アメリカはそんなことを計画しながら、軍用機生産の急速拡大に全力を傾けていたわけですが、一方、連合国はアメリカに対して具体的に何を望んでいたか、これも大切な点です。

 確かに練習機はあるに越したことはありませんし、現用発動機を豊富に供給されれば、あるいは機体と一緒に供給してくれて、なおかつ操縦者まで一緒についてくる(すなわちアメリカ陸軍航空隊の大規模投入)ならば連合国航空部隊の負担は大幅に減ります。けれどもイギリスやフランスが本当に期待していたのは練習機でも現用機でもなく、近い将来必要になる大型機、中でも爆撃機用の大馬力発動機でした。ロレーヌ デートリッヒやロールスロイスの大馬力発動機の開発は進んでいたものの、次世代の大馬力発動機試作にはリスクがつきまといます。アメリカのような生産技術面での先進国からはそうした大馬力発動機を安定した品質で大量に供給して欲しい。できれば機体と乗員ごと送って欲しい。連合国がアメリカに本当に望んでいたのは大馬力発動機の大量供給でした。

 アメリカも参戦と共に本腰を入れて注文してくるイギリス、フランスが欲しがっているものが大馬力発動機であることを理解し始めましたが、そうは言っても、ヨーロッパ製の試作発動機をアメリカで熟成、量産することは、理屈の上でのみ可能な話であることもじきに判明します。そしてフランスが発した現用発動機の大量注文も、アメリカの現状が一つ前の世代の発動機を何とか量産開始するのがやっとだと気がつくと、簡単に撤回されてしまいます。1917年の4月といえば無敵のドイツ戦闘機隊に連合軍機が次々に撃墜された「血まみれの4月」です。アルバトロスDIIIに勝てないようなエンジンは色褪せて見えてしまいます。

 史上空前の規模で展開される大戦争のお陰で飛行機の進歩は想像を絶するほど早く、今日の新型機は明日には旧式機に成り下がり、ヨーロッパ製の発動機を機械加工と規格化が浸透したアメリカの製造現場に再設計して量産できるようになる頃には、もはやそれらは旧式となって、練習機にしか使えなません。しかもヨーロッパ製の試作大馬力発動機のアメリカ化なんて、まるで馬券を買うようなものだと思い知ったとき、陸海軍統合技術会議にも陸軍通信隊にも、アメリカの数少ない航空機工業エンジニアたちの間にも一つの発想が生まれます。

「得体の知れないヨーロッパ製試作発動機と心中するより、アメリカ製の大馬力発動機を一から開発生産しても、手間もリスクも大して変わらないのではないか?」

「図面から製造工程まで全てやり直さなければ済まないヨーロッパ製発動機の量産を準備するよりもアメリカの考え方に基づいたアメリカの航空発動機を作り上げる方が合理的かもしれない?」

「どうせ時間が掛かるなら、量産実現時にも性能面で陳腐化しない画期的大馬力発動機を最初から国産を前提で目指せばいいじゃないか?

 誰もが少しずつ思い始めた頃、最初の1人が口を開き、アメリカ製大馬力発動機の急速開発が開始されます。
「リバティエンジン」計画の始まりです。

7月 19, 2009 · BUN · No Comments
Posted in: アメリカ陸軍航空隊, 発動機, 航空機生産, 即席空軍大国

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