WWI ドイツ海軍の洋上航空戦
ドイツ海軍航空部隊には最初から大きな足枷がありました。それはドイツの航空機工業が陸軍の管理下にあったことです。陸軍は海軍用の機体生産、発動機生産に対して寛容ではなく、またその余裕もありません。そのためにドイツ海軍航空部隊は1914年8月の開戦から1918年11月の休戦まで本来必要と考えられた兵力を完全に満たすだけの軍用機を得ることができません。けれどもこれを採り上げて「陸海軍の対立」といった皮相的な論評を下すとしたら、それは史実を無視した愚かな話です。ドイツは発動機も機体も量産体制が整っていない状態でフランスに対抗しなければならなかったのですから、対フランス戦において重要度の高い陸軍航空部隊の充実が最優先であって何の間違いもありません。
ドイツ国内の航空機工業が陸軍向けの発動機と機体を生産していた中で、海軍はごく僅かな「海軍用」の指定工場を確保し、そこで海軍の投資と指導の下で海軍用の発動機と機体を生産し自らの航空機部隊に配備するかたちで航空軍備を整えています。こんな話を聞くと「ハンザ・ブランデンブルク」といった何となく海の匂いのするメーカー名が思いつくのはそれが海軍の指定工場だからです。こうした形でドイツ海軍航空隊は終戦までに1740機の軍用機を獲得、配備しています。ドイツ海軍航空機部隊は海軍所属のツェッペリン飛行船部隊を除けばこんなに小規模な「空軍」でした。
海軍航空機部隊の主な任務はバルト海と北海の艦船攻撃でした。機数も限られ経験も浅い洋上航空攻撃は規模の割には戦果の上がる採算のとれる戦いとなっていましたが、1917年から1918年にかけての北海での艦船攻撃は目覚しいものがありました。ドイツの水上攻撃機は北海の敵艦船に対して爆撃と雷撃を行い、1917年6月の英仏海峡で3隻の商船を撃沈したほか、1917年から1918年にかけて北海で活動するイギリス艦船に対して、商船4隻、哨戒艇4隻、潜水艦3隻、その他12隻、加えてロシア駆逐艦1隻を撃沈しています。
こうした攻撃を実施したドイツ海軍水上攻撃機はその活動を水上戦闘機隊によって掩護されており、ドイツ海軍の航空艦船攻撃は戦爆連合で組織的に実施されていました。我が国ではある水上戦闘機の失敗例があるために「水上戦闘機」と聞けば机上の空論によって生まれた中途半端な存在のような印象がありますが、第一次世界大戦下のドイツでフロートをつけた水上戦闘機が必要とされた理由はこのように明確かつ合理的です。太平洋戦争期の日本海軍水上戦闘機のように最前線に真っ先に進出して敵の陸上戦闘機とわたり合うのではなく、洋上艦船攻撃作戦で敵水上機による妨害から友軍水上攻撃機を守る任務であるからこそ、第一次大戦の水上戦闘機は存在意義があり、しかも成功しているのです。1917年から1918年の休戦まで北海上の航空優勢は終始ドイツ海軍の手にあり、空中での戦いの結果は敵航空機約270機を撃墜、友軍の損害170機といわれています。
そして水上機による艦船攻撃の実績からドイツ海軍は洋上艦船攻撃の作戦範囲をさらに広げるために未完成の客船「Ausonia」(11.300トン)に長さ128.5mの飛行甲板を設け、近代的な島型空母として改造する計画が生まれ、1918年中に最優先で改造工事が開始されています。小さな空母ですが、ドイツ海軍初の空母建造計画は実験目的でも他国海軍の模倣でもなく、既に実績ある洋上艦船攻撃作戦を発展させる目的で、具体的には航空母艦上から20機程度の艦上機(フロートが無い分だけ水上機より性能が優れる)を運用することで北海での艦船攻撃をより大規模に実施できるとの考えに基づいています。
小規模ながら洋上攻撃が組織的に実施され、しかも最後まで貫徹された背景にはドイツ海軍の明確な航空機運用方針が存在しています。それはドイツ陸軍と同じく航空機を攻撃兵器として積極活用するという明確かつ適切なものです。水上機による北海での艦船攻撃作戦はそれだけで完結するものではなく、Uボート作戦、飛行船作戦との連携で成り立つ、対イギリス戦略攻撃構想の一環だったということで、まずイギリスを脱落させない限り第一次世界大戦の勝利はあり得ないとの認識によってドイツ海軍航空機部隊は活動していたのです。
1月 4, 2009
· BUN · 2 Comments
Posted in: 第一次世界大戦
2 Responses
king - 1月 5, 2009
そういえばブログの題名が真実日記から変更されていますね。
ドイツ海軍航空機部隊が活躍なんて聞いた事も無いです。しかも水上戦闘機という所が萌えます。
さっそくネットで探したのですがそれらしい機体が見当たらないです。プラモデル化されてないから情報が少ないのかもしれません。
BUN - 1月 5, 2009
kingさん
ううん、何でタイトルが変わってるんでしょうねぇ。
私にもわからない力が働いているのでしょうか。
それはそれとして・・。
「紅の豚」で水上戦闘機同士が空中戦を戦う必然性は、まあ、こんなところかな、と。プラモは・・・よく探すと近頃はあるみたいですよ。
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