計画の功罪
グループ化と「シャドー」計画は軍備計画の達成には十分に貢献していますが、製造会社のグループ化には機種の標準化という功罪相半ばする特徴があります。英国の多くの製造会社は戦時中、自社設計の新型機ではなく他社設計の現有機の量産にその生産能力を投じていましたから、ボールトンポールやブラックバーン、ウエストランド、フェアリーなどの多くの会社が既存の機体の増産計画に追われ続けることになります。もともと英国の航空機工業は小さい会社の集合体でしたから現有機の増産計画の消化だけでどこも手一杯のまま戦争半ばまで過ごしてしまいます。
この影響をマイナス面で大きく受けたのが艦隊航空隊と沿岸航空隊でした。どう見ても旧式なアルバコアが生産に入ってしまい、もっと旧式なソードフィッシュの生産がいつまでも続いた背景には製造会社のグループ化、機種の標準化という、理念としては合理的な判断があったのです。そしてそれでも目標に足りない生産数を性能的に不満足な機体の生産で埋めるという応急的措置が採られます。
グラディエーターのような複葉戦闘機がハリケーンやスピットファイアに混って生産されていた理由はこれです。しかもスピットファイアの採用事情さえ前に書いた通りの経緯があります。増産計画達成のために機種を標準化したけれどすぐに旧式化してしまい、それでも生産能力が足りないから不本意な新型機を採用し、その結果機種がちっとも減らないという苦しい事情が英国軍用機界を見事なまでの旧式機、駄作機王国へと追い込んでいる訳ですが、詰まるところは全て合理化と標準化の副産物です。懐古趣味でも保守的国民性でも何でもありません。
また自動車工業界を取り込むという画期的なアイデアである「シャドー」計画にも大きなマイナス面があります。それまで飛行機を造ったことの無い工場に新しく飛行機の生産設備を整え、量産に入るには治具や機械工具の調達が重要ですが、「シャドー」の親会社には十分な治工具の供給能力がなく、ただでさえ時間の掛かる生産転換をさらに遅らせる結果となり、「シャドー」計画によって生産される機種が工場を出始める頃には既にその機種は旧式化しているという事態が通例となります。
そんな「シャドー」計画のマイナス面がブレニムのような中途半端な軽爆撃機がいつまでも生産され続けるという事態を生み出しています。こうした「生産開始したら旧式化」という都合の悪い事態を防ぐため、後期の「シャドー」計画は現有機ではなく、試作中の機体や発動機に対して準備されるようになりますが、これにも問題が出て来ます。
それは試作の難航、失敗への対応です。ハリケーン、スピットファイアという戦闘機の同期生の後継機としてトーネードとタイフーンが計画されますが、機体にも発動機にも問題があり、結局トーネードは中止され、タイフーンは凡庸な性能の機体として仕上がり、大量生産のための膨大な投資が無駄になります。主な原因はネピアに対する保護政策として試作発注された大馬力発動機であるセイバーの不調ですが、それと同時にセイバーをライバル視するロールスロイスが見込みの薄いバルチャーを放棄して標準的な設計のマーリン発達型とも言えるグリフォンを「既存のマーリン装備機の換装用」として航空省に強力に提案し、しかもその性能がタイフーンを上回ったこともタイフーン大量生産計画が縮小された大きな要因のひとつです。
航空省としてはグループ化と「シャドー」によって苦労して大量生産体制を整えた既存の機体の性能を一新して兵器としての寿命を延ばせるのであればこれ以上良いことはありませんから、「スピットファイア」の大量生産は終戦までそのまま促進され続けることになります。この点ではロールスロイスのビジネスセンスは抜群だったと言えますね。
こうして見るとグループ化による機種の統一、標準化も、「シャドー」による大規模転換生産政策も、開始すべき時期に開始され、結果的に必要な兵力を供給できたということで、それ自体は批判されるべきことではありません。ただ、その計画のマイナス面は確かに存在していて、本来望まない性能の機種や旧式機の生産継続という問題が生じていますが、これは航空省の失策というよりも、航空機発達史的に見て1930年代半ばは飛行機の性能面での躍進期にあたったことも大きく影響しています。次々と画期的性能の機体が生まれる時代に機種の統一、標準化という発想はマッチしなかったのです。その後1930年代末に採用された機種が改良を重ねて終戦まで第一線で活躍していることを見ればこの時代の流れの速さが納得できるように思います。
3月 26, 2008
· BUN · 5 Comments
Posted in: 航空機生産
5 Responses
おがさわら - 3月 26, 2008
だから、ずーっとソードフィッシュだったか。つまり艦載機は、最後まで機種更新を後回しにされたってことなのね。
時々、文字の大きさやフォントが、変わるのはワードで書いたのをコピペしているから。編集画面の上のタブのコードを選んで貼り付ければ、フォントの情報は無視されるよ。
そいと、画像の貼り付け方は分かった?
bun - 3月 26, 2008
おがさわらさん
画像は怖くて貼り付けられませんぜ。
猪八戒、じゃない著作権もあるし・・・。
bun - 3月 27, 2008
またひとつ野望に近づきました。
おがさわら - 3月 27, 2008
ぁぁ、確かにあっちに貼ってるのは、登録商標バリバリのばっかだよね(w
そだ、プラモ作ってるとこの写真アップすれば?
真実くんのインジェクションキット講座とかどうよ。
ひたすら作成途中の写真貼りまくって、テケトーにコメントしていく、手抜きコンテンツ。
その横で、BUNさんが、着々とバンダイのMGをくみ上げていく様も並列で解説し、インジェクションキットと日本最先端技術で作られたキットの対比を映し出すってどうかな?
bun - 3月 27, 2008
す、すごい企画ですね・・・・。
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