PSO

 ファンタシースターオンライン(以下PSO)は、2000年の12月にリリースされたドリームキャスト用のソフトで、国内で初めて成功したオンラインゲームである。そしてその大成功は、その後の国内ネットゲーム市場の動向に大いなる影響を与えた。

 それをさかのぼる三年前の時点で、すでにこれからのゲームは最初にネットありきという方向へ向かっていくであろうという共通認識を持っていた海外と比べると、それまでの国内のネットゲームに対する反応は冷淡なものであったといえる。
 任天堂は、GCの投入でネットワーク機能を備えたが、今もゲーム機同士を線でつなぐ事にこだわり続けているし、業界標準であるPS2のネットワーク機能は未だに高価なオプションである。
 そういった空気の形成に大きく寄与していたのは、80年代に開発者として当時黄金期のゲーム業界を支え、今現在会社の重役ポストに着いている連中ではないだろうか? 一人名前を挙げるならば、スト2を作った男、カプコン岡本吉起(現在はカプコンを退職)である。NTTがフレッツを開始して、常時接続が爆発的に広まろうが、ADSLの普及がすすもうが、頑として「今の国内のネットインフラでネットワークゲームなんてナンセンス」と呪文のように繰り返す、氏の青カビ臭漂う発言は今も記憶に新しい。

 そんな岡本吉起と同世代の男。中裕司が社長を勤めるソニックチームからPSOは生まれた(ちなみに、中裕司はファンタシースター2のメインプログラマーであった)

 PSOを眺めてみると、これがネットゲームにそれなりに精通した開発者の手によるものであることは容易にわかる。何点か具体的に挙げるならば、まず装備に対するレベル、能力値制限である。第一世代MMOであるところのEQは、当初装備にレベル制限がなかったため、高レベルのキャラクターがゲットしたアイテムを装備することで、レベル不相応な高い戦闘力を持つ低レベルキャラ、いわゆるTWINKと呼ばれるキャラが大量発生した。これに学んだEQ以降の後発MMOは装備にレベルもしくは能力値制限を設けることで、TWINK問題をクリアすることとなる。PSOのリリースはTWINK問題に対応し始めた後発MMOのそれとほぼ同時期であり、対応の時期としてはまま早いといえるだろう。

 それからあのやたらに選択肢の多い、キャラクターの顔、コスのカラーパターン、コレも重要だ。たいていのゲームは手間のかかるこれらの作業を、なるべくはしょろうとするが、自分と同じ顔をしたヤツなんぞには絶対会いたくないという、ネトゲ住人の要望にPSOは見事応えている。ここらあたり、分かっていないのか、もしくは分かってはいるけど手間がかかるからやらないのか、チョソゲーのキャラクター外見選択肢は非常に少なく、オープンβでは常に同じ顔がひしめいている。自分の知っている限りで、PSOのフェイスの種類は、キング・オブ・馬鹿MMO、アナーキーオンラインの次に多い。

 そして、プレイヤーがロビーにて仲間を募り、プライベートな部屋を作成してゲームを進行するMORPG方式はDIABLOのシステムである。当時、すでに主流となっていたMMORPG方式を捨て、一世代古い枯れた方式を採用したことはPSOの成功の最大の要因の一つであるが、このMO方式の採用は時間がなかったことが最大の理由に思える。
 ただし時間はなかったが金はあった。当時、セガ製ハードの存亡を賭けた最後の戦いで、キラーソフトとしての重責を負わされたPSOの開発には湯水のごとく資金が投入された…… わけでもないようだ。正確にいうならば、どうやらソフト本体の開発にはそれなりの額が投じられた様子なのだけれど、サーバー運営に関しては全然であったようだ。PSOのサーバ-環境をきわめて安価に構築した様子が、二年前のネットニュースから伺うことができる。

国産オンラインRPGの先行者「PHANTASY STAR ONLINE」成功を支えたバックエンド

 しかしこれなんだか変ではないか? 国内初のコンシューマーネットRPGとして開発された、それもキラーソフトとしての重責を担ったタイトルの、ネットワーク構築がかくも低予算に苦しんでいたとは。
 ここで自分はこういう仮説を立てる。ネットゲームとして世間で認知されていたPSOは、実は社内ではそのネットワーク部分にあまり期待されていなかったのではないかと。そうした時代錯誤な判断を下したのはもちろんセガ上層部の人間であり、ソニチにおいては会社のトップ、中裕司なのではないかと。
 数年前雑誌で読んだ中裕司のPSOに関するインタビュー記事で記憶に残っているのは、

 いやぁ、パッチって便利、正直感動した。
 サーバー側にデータを保存することは考えてません。それじゃオフラインで遊べませんから、全く意味がありません。

 これは、ネトゲをやったことのない人の発言としか思えない。や、実際そうなんだろう。

 こうしてPSOの進化はロートル連中によって大きく妨げられた。今回、PSOはPSOBBという名前で、初めてキャラクターデータのサーバー保存を実現したが、これはもうぶっちぎりで遅い。もう二年前の時点で達成しておくべき項目である。

 ローカル側にデータを保存するタイプのネットゲームはデータの改変が自由に行われるため、その面白みが大きく損なわれてしまうということは、97年のDIABLOの時点ではっきりしていた。このデータの改変はチートと呼ばれているが、DIABLOはチートによって終了したというのは、業界では常識中の常識である。その失敗をふまえた上でリリースされたDIABLO2は、従来のローカルデータ保存に加え、サーバー保存方式を追加。ユーザーのほとんどはサーバー保存に流れ、1で猛威をふるったチートは2においては、まったく問題にならなかった。その結果、DIABLO2は前作を超える息の長いゲームとなり、2001年のリリースから三年を経た今現在も、多くのプレイヤーに遊ばれている。

 今回のPSOBBのリリースはあまりに遅すぎた印象をぬぐいきれない。しかし、今回のPSOBBは今までとひと味違う。まず、クライアントは無料ダウンロード、オープンβで育てたキャラは有料サービスにそのまま移行と明言するなど、まるっきり韓国モデルを取っている。今までからは想像もできないような思い切りの良さだ。一体何があったのだろう? ついに頭の固いロートル連中もネットゲームに理解を示したのであろうか? や、そうではない。今後ファンタシースターシリーズの主力がファンタシースターユニバースに移っていくので、PSOはもう勝手にやっていいよということになったに一票。
 ついでにいろいろと憶測の飛ぶファンタシースターユニバースのゲーム形態であるが、拡張型MOに一票。今のセガにMMOをやる気概も体力もあるとは思えないから。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です