まず、原作。
自分が原作に感じた率直な印象は、脚本が突き抜けすぎていて、他がそれについていないというもの。脚本というかプロットは本当に一級品だと思う。事実、原作のストーリーの多くはそのままアニメになっている。
ほんじゃあ、突き抜けた脚本に対して足りないモノは何なのかというと、やはり人物の作り込みだろう。
原作プラネテスの登場人物は、ハチマキもユーリもフィーもタナベもみんな同じ性格だ。なんやかんや言っても最後に言うことは無表情に「ま、いっか」そんな登場人物ばかりである。
そしてさらに致命的なのは、この作者、女が描けない。外も中も。フィーもタナベも中身は男である。宇宙空間でハチマキとタナベがしりとりをする場面は原作屈指の名脚本だが、あんなん男女相手にやってはもったいないと思うのだ。
絵に関して、デビュー当時の幸村誠は(当然だが)読者に媚びようという姿勢もあり、一巻の地球外少女のノノなど、十分見れるレベルの絵柄だが、ある程度の地位を築いてからは自分の好き勝手な絵を描いている。よって二巻登場のタナベなど相当キツイ。まあ、守村大のアシ出身なんだからこれは仕方ないか。
などと人物の描き分けについては辛辣な評価になってしまうが、幸村誠はまだデビュー五年目の28歳。年齢から考えれば平均値からさほど見劣りするモノではない。ただ、前述の通り脚本が突き抜けているため、どうしてもそこが目立って見えるのだ。
アニメ版と原作のもっとも大きな相違点はタナベの性格だろう。「愛がなくちゃダメなんです!」と連呼する女にふさわしい、まっすぐで純真なキャラクターがアニメでは用意されている。そしてこれは大正解だ。
繰り返すけれど、原作タナベはヒロインとして相当キツい。アレを相手に「愛し合うことだけはやめられないんだ」と言われても厳しいのである。
自分がアニメを通しで見たときは、やたらとテンションの高い脚本に心底感心したのだけれど、自分が感心した脚本の多くが、ほぼ原作ままだということが分かって二度感心したのであった。ただ、原作ではページ数の都合からか、描写不足のところが多少あり、それをアニメでは見事にカバーしている。また原作へのリスペクトは誠実なもので、原作のサブタイトルはそのまま採用されているし、セリフもほとんど原作のままだ。
もちろん、原作の引き写しだけではない。アニメオリジナルの素晴らしい回もある。一つあげるならばやはり、11話「バウンダリー・ライン」だろう。
誰も知らない南米の小国からやってきた宇宙服のセールスが、母国産業初の国際規格取得を目指す。その男には紛争の絶えない母国に産業を興すという確かな決意があった。
……というまんまプロXなストーリーのこの回はアニメ版屈指の名エピソードだ。
そして、このエピソードの前後に単行本一巻のphase1 phase3 phase4が配置されており、名脚本の連続で見る者を圧倒するのだ。
アニメはオリジナルのエピソードを挟みつつも、ハチマキがフォン・ブラウンの乗員を目指す、基本は原作と同じ流れをたどる。そして最後は一巻のカバー、そして「ロケットの見える風景」でユーリが言った台詞、つまり「天も地も自分も含めてすべて宇宙」というテーマに向かって物語は収束し、途中のハード展開がウソのような爽やかなエンディングを迎える。
なんかまとまらないけど、このポストはここでいったん切っておこう。もっと色々書きたいことがあったような気がするんだけど、もう忘れちまったい。
最後に、自分的にグッときたエピソードを列挙。
#03 帰還軌道
原作のタナベ登場回だが、完成度は原作より上。遺族が遺体を引き取る動機が明確。
#04 仕事として
アニメオリジナル。これはただ脚本がうまいと褒めるしかない。
#06 月のムササビ
分かれた妻の父親に「ろく職にも就かんで、忍者ごっこか。くぉのゴクツブシがぁ」とおもちゃの刀でペチペチ頭をたたかれる小源太に泣き。絵コンテが米たにヨシトモ。
#08 拠るべき場所
オーソドックスなパターンではあるけど。
#10 屑星の空
原作第一話。アニメ第一話オープニングでもある。コンパスの言葉はグッと来る名脚本。これは原作の幸村誠がただただ見事。
#11 バウンダリー・ライン
前述の通り、屈指の名エピソード。中島みゆきの歌声が聞こえてきそうな勢いで泣ける。
#12 ささやかなる願いを
「生きてるって素晴らしいね」「知るか!」
#18 デブリ課、最期の日
まあいつか来るんだろうなと思っていたらやはり来た係長。期待を裏切らずかっこよく文句なし。
で、これ以降のエピソードは、面白いは面白いんだけど、重すぎてちょっとグッと来るというのではないので割愛。「#24 愛」なんて、監督が山賀に変わったのかと思ったけど……
もちろん、最終回はよかった。