航空機用レーダーの話

 航空情報の2009年8月号でF-2改に関する記事を書いた訳ですが、某有名軍事ブログや読者様のメール等で「あんたAPG-73の最大探知距離とルックダウン時のJ/APG-1の探知距離比べてどうするねん」と突っ込まれておりますれば、それに対する雑文を書いておく次第。

この件に付き、某ブログでは各種資料を当たった上で、

○AN/APG-66/68とAN/APG-73の最大探知距離は同じ80nmとされる。
○AN/APG-66の探知距離はルックダウン時で20-30nm、
 ルックアップで25-40nm。
 AN/APG-68はそれぞれ27.5nm/35nmでAPG-66と大差はない。
 これを考慮すると、最大探知距離が同等のAN/APG-73の場合、
 ルックダウン時の探知距離は、APG-66/68と同等でJ/APG-1
 (ルックダウン時35nm)を下回ると思われる。
 最大探知可能距離もJ/APG-1の方が上回る可能性がある。

としています。

 一方私が今回の記事を書くにあたり、APG-65/73系列の性能を調べるのに使用した資料は、

「The Naval Institute Guide to World Naval Weapons Systems(以下WNWS:NIP発行)」

の1997-1998版及びFifth Edition(2006発行)の二冊と、昔米海軍関係の知り合いから貰った機密に引っかからない程度のメーカー・海軍関係資料です(以下○○○○としておきます)。

 これらの資料によると、APG-65/73のレンジスケールは最大160nmとなっており、空対空モードの最大探知可能距離も160nmとされています(Range-While-Scanモードの場合/WNWS1997-1998版ではP207に記載:恐らくこれは対大型機に対する最大探知距離でしょう)。一方某ブログで上げられたAPG-66のルックアップ・ルックダウン時の探知能力値は、WNWSの1997-1998版ではAir-to-Airモードの数値として記載されています。
 一方某ブログで比較例に出されたAN/APG-66の最大探知距離は、通例同所の記載通り80nmとされますが、これはAN/APG-65/73の「最大探知可能距離160nm」と同様の最大探知可能距離の数値で、戦闘機サイズの目標に対しての最大探知距離は約35nmとする資料があります(Globalsecurity.org等でもこの数値が記載されています)。 これから見てNWNSに記載された同レーダーのルックアップ・ルックダウン時の探知距離の数値は戦闘機サイズの目標に対する物と見て問題無いかと思います。またこれらの資料の内容からいくと、AN/APG-66とAN/APG-65/73とでは最大探知可能可能距離は公称で80nm対160nmと大きな差があり、戦闘機サイズの目標に対する最大探知距離も同様にAN/APG-66の約40nmに対し、AN/APG-65/73は80nmと約倍の差があると考えられます。

 さて上記のAN/APG-66の最大探知距離とルックアップ・ルックダウン時の数値を比較すると、同レーダーで戦闘機サイズの目標に対して索敵を実施した場合、最大探知可能距離に比してルックアップの場合で最大50%、ルックダウン時では最大37.5%程度の距離で探知できることになります。この数値が戦闘機用レーダーの最大探知距離と戦闘機程度の大きさの目標を探知可能な性能値の差異の平均と仮定して、APG-65/73系列の最大探知距離にこれらの値を掛けると、ルックアップ時の最大探知距離は対戦闘機時の最大探知距離として通常言われる80nm(おお!)になります。一方ルックダウン時の場合は最大60nm(AN/APG-66の下限側数値である25%としても40nm)となりますので、現時点ではAN/APG-73の方がJ/APG-1より同条件でのルックダウン時の探知距離が長い可能性は充分にある、と本職には思えます。

 因みに該当記事に記載したAN/APG-73の探知距離が80nmという数値は、NWNSにはルックダウン時の数値が載っていなかったので、○○○○な資料に載っていたルックダウン時の探知距離として記載されていた数値を使用しました。この数値は通例言われる戦闘機サイズの目標に対する最大探知距離と変わらない上に、NWNS記載のAN/APG-66やAN/APG-71等の探知能力等から換算すると、やや探知距離が長すぎる気はしますので、「ルックダウン時の最大探知可能距離」かも知れません。
 ただ記事の執筆時に最大160nmの探知能力があるなら、対戦闘機で達成不可能な数値では無いと思ったのと(最低でも上の推論程度の性能はあると思っていましたし、レーダーは似た様な電波特性・出力値のものでも、目的別の調整で各部の性能が変わるのは良くある話ですから)、資料の性能記載が戦闘機サイズの探知能力を中心に書かれている資料であったので、それを使用した次第です。
 しかしこの点については、AN/APG-65/73のルックダウン時の性能について、条件が揃っていない・内容が確認できない数値を使用した、と言われればその通りだと思います。その点については謝罪いたします。

 なお、某ブログで傍証に使われたAN/APG-66とAN/APG-68に関して、こちらの資料だと気になる点があったのでちょっと追記します。AN/APG-66の探知距離はWNWSの1997-1998版に某ブログでも示された数値が掲載される一方で、同書内ではAN/APG-68の性能詳細は出ていません。その一方で、AN/APG-66のレンジスケールが最大80nmなのに対し(APG-66の最大探知可能距離は80nmですから当然ですね)、AN/APG-68は探知可能距離の拡大が為された結果、レンジスケールが最大160nmまで拡大された、とされています。これからいくと、AN/APG-66とAN/APG-68の探知能力に相応の差異がある可能性が否定できないと思います。

 まあ色々とグダグダ書いてきましたが、該当記事はここらの点を考慮した上で書いたもので、単に誤記した訳ではないし、根拠が無いものを書いた訳でもない、とだけ申し上げる次第です。

 またこの内容に付き、より明確な内容が把握出来た・修正が必要な内容が出てきましたら、こちらの日記に追記する形でフォローしていきたいと思います。なお、この件に付き、この他にも何か質問等ありましたらコメント欄に記載するか、メールで御連絡頂ければ幸いです。当方出来る範囲で対応いたします。

14 Responses to 航空機用レーダーの話

  1. 酢駄粉麩津 より:

    はじめまして
    興味深く読ませてもらいました
    比較の段階で条件が揃っていないのは
    公試排水量と基準排水量を同列に並べて
    「こっちのほうが大きい」
    と言われているような違和感を覚えましたが
    こうして説明されると納得です

    これからも楽しみにしています

  2. クリシュナ より:

    ルックアップ時の最大探知距離は対戦闘機時の最大探知距離として通常言われる80nm(おお!)になります。一方ルックダウン時の場合は最大60nm(AN/APG-66の下限側数値である25%としても40nm)となりますので、現時点ではAN/APG-73の方がJ/APG-1より同条件でのルックダウン時の探知距離が長い可能性は充分にある、と本職には思えます。

    AN/APG-73の探知距離が80nmという数値は、NWNSにはルックダウン時の数値が載っていなかったので、○○○○な資料に載っていたルックダウン時の探知距離として記載されていた数値を使用しました。

    この二つの文は矛盾があるように思いますが。ルックダウンと書きそびれただけだとしながら
    80nmはルックアップの数値になっています。また、ルックダウンの推測で40-60nmと
    しているのに記事中の80nmでは数値が最大で二倍も違います。
    説明と記事内容に大きな矛盾点があるかと。

    記事の内容がルックダウンだけだったとしても記事に問題があるのではないでしょうか?

  3. 大塚好古 より:

    #酢駄粉麩津殿

     御参考になった様で幸いです。

    #クリシュナ殿

     えーと書き方が悪かったですかね。

    ○40nm-60nmの説明部分は、某ブログが「探知可能距離はJ/APG-1>AN/APG-73」の論拠としてあげたAN/APG-66/-68の性能値からの類推に対して、「こちらの手持ちにあるAN/APG-66とAN/APG-65/-73のデータで似た様な類推をすると、最大探知可能距離はJ/APG-1<AN/APG-73となりますよ」という反証例としてあげています。因みにこの類推は原稿を書く前にやってまして、本職の「まあ最低でもこの程度の性能はあるだろう」という考えの元の一つになっています。

    ○記事中で書いた80nmは、上の通り○○○○な資料に記載されていた「(対戦闘機サイズと思われた)ルックダウン時の最大探知距離」から記載しました。クリシュナ殿が言われるとおり、通例この数値は対戦闘機サイズの最大探知距離とされていますが、「空対空モードの最大探知可能距離が160nmあるなら、不可能ではないと思った」云々の部分の部分で述べたように、あり得ない数値ではない、と考えてこの数値を記載しました。
     但し上記文章で書いた様に、「この数値が条件が揃っていない・内容が確認できない数値」だと言われればその通りだと思いますし、データの扱いに不注意であった面があったのは否定できないので、その点について謝罪させていただいた次第です。

  4. JSF より:

    この度は申し訳ありません、私の認識は弱かったようです。

    http://obiekt.seesaa.net/article/123301214.html

    訂正記事の中で新たな資料も見つけてはきたのですが、APG-73のRangeが60nmという数値だけで、詳細が不明で、ルックダウンかどうかも分からない代物です。あとはコメント欄の方に幾つかデータが載せられているのですが、決定的とは言いかねるので何ともいえません。

  5. 大塚好古 より:

    #JSF殿

     この様な場末の日記への御来訪有り難うございます。元々当方の数値取扱いの不注意から起こったことに対し、わざわざ貴ブログの訂正連絡&謝罪をいただき、大変申し訳なく思うと共に、感謝する次第です。

     この件につきましては、こちらもある程度明確な情報が見つかりましたら、改めて御報告したいと思っております。また何かありましたら、容赦ない突っ込み&御指南戴ければ幸いです。

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